信託会社と信託銀行の違いとは?家族信託を始める前に知っておきたい基礎知識
家族信託を検討される中で、「信託会社」と「信託銀行」のどちらに依頼すべきか迷う方は少なくありません。名称こそ似ていますが、その成り立ちや業務の内容、契約設計の柔軟性、さらには手数料や相談体制に至るまで、実は多くの違いがあります。
本記事では、信託銀行出身で資産承継の現場に長年携わってきた筆者の立場から、家族信託に関心をお持ちの皆様が安心してスタートできるよう、信託会社と信託銀行の違いと選び方について、実務に即したかたちでわかりやすく解説いたします。
信託会社と信託銀行とは何か?
家族信託の仕組みを理解するには、まずその「受託者」となることができる機関について知っておく必要があります。信託銀行と信託会社は、いずれも信託業法に基づき免許を受けて業務を行っており、形式上は同じ「信託業者」に分類されます。しかしその実態は大きく異なります。
信託銀行の特徴と役割
信託銀行は、信託業務に加えて預金業務、貸出業務、為替業務など、一般の銀行と同様の業務も行える特別な銀行です。信託銀行の多くは大手金融グループに属しており、組織体制や資本規模の大きさに裏打ちされた“制度的な安心感”が最大の強みです。
主な取り扱い信託は、以下の通りです。
- 遺言信託:遺言の作成支援から執行までを一貫してサポート
- 不動産管理信託:賃貸物件や共有不動産の管理・運用を代行
- 金銭信託:顧客の意向に基づき資金を預かり、運用する信託
- 公益信託:教育・医療・地域貢献等の目的で財産を信託する
ただし、家族信託のように「柔軟な契約設計」が求められる信託には消極的な傾向があり、実際に信託銀行で個人向けの家族信託を取り扱うケースは少数派です。
信託会社の特徴と役割
一方の信託会社は、信託業務に特化した法人であり、銀行業務は行いません。特に、家族信託を主力として扱う「商事信託会社(民事信託専門会社)」が全国的に増えており、比較的小規模ながら機動力と柔軟性に優れたサービス提供を行っています。
信託会社の主な業務には次のようなものがあります。
- 家族信託(民事信託)契約の受託・管理
- 契約書作成支援や信託監督人との調整
- 不動産信託の名義変更手続きの代行
特徴的なのは、「オーダーメイドの契約設計」が可能な点です。たとえば、将来的な認知症リスクに備えて財産管理を第三者に託したい場合や、障がいを持つ子どもの生活支援を信託で確保したい場合など、目的や家庭事情に応じた設計がしやすいのが信託会社の強みです。
信託会社と信託銀行の具体的な違い
「信託契約が組める」という点では共通していますが、対応できる範囲や体制、費用面には明確な違いがあります。ここでは、実務上重要となる2つの視点から詳しく解説します。
扱う信託の種類・柔軟性の違い
信託銀行は、主に法人顧客や大口資産家向けの業務が中心であり、一定以上の資産規模がなければ契約そのものを受け付けてもらえない場合があります。また、信託の内容も「定型型」が多く、例えば「委託者の死亡後、受益者が子に切り替わる」といった単純な構成に限られることもあります。
一方、信託会社は、以下のような多様なニーズに応じた契約が可能です。
- 委託者が生前は受益者として生活資金を受け取り、死亡後は孫にスライドする構成
- 信託財産が複数あり、用途ごとに異なる管理方針を設定する契約
- 信託監督人・受益者代理人・信託終了事由などを詳細に設定
実際に高齢の親の将来の介護費を信託で備え、必要なときだけ受益者に支払う仕組みを希望されたケースでは、信託銀行では受託不可でしたが、信託会社では柔軟に対応できたという事例もあります。
手数料・サポート体制の違い
信託銀行の手数料は、信託契約の設計料・信託報酬・実行時の名義変更手続き料などを含めて数十万円〜数百万円に及ぶことが一般的です。加えて、年間の信託管理費用が発生するケースもあります。
一方、信託会社では初期費用が30万〜50万円程度に抑えられ、信託報酬についても個別案件ごとの見積もりとなっているケースが多く見られます。また、士業と連携して一括サポートを行う信託会社も多く、「相談から契約までの距離が近い」ことも特徴の一つです。
ただし、信託会社は中小規模が多いため、担当者の経験や体制にばらつきがあることも事実です。比較検討を行う際には、過去の信託実績や契約後のフォロー体制を必ず確認しましょう。
どちらを選ぶべき?判断基準と選び方
信託契約は、単に「契約を結ぶこと」よりも、「適切な設計と実行を継続できる体制を整えること」が重要です。ここでは、どのような方がどちらに向いているかを判断するための視点をご紹介します。
自分に合った選び方のポイント
信託会社と信託銀行、それぞれに利点がありますが、最終的な選択は「自分たちの目的に合っているかどうか」が鍵になります。以下に、判断の目安となるポイントを整理しましたので、ご自身やご家族の状況と照らし合わせてご検討ください。
- 信託銀行に向いている方
- 金融資産・不動産等の資産規模が大きい(概ね5,000万円以上)
- 企業オーナーや富裕層で複数の資産に複雑な管理が必要
- 公益信託や法人信託など、社会的影響を考慮した設計を希望する
- 信託会社に向いている方
- 高齢の親の財産管理を子が行うケース(生前対策)
- 障がいのある家族の将来の生活支援
- 資産規模が小さくても柔軟な管理体制を希望する場合
特に家族信託においては、実務を理解した担当者の存在が契約の質を左右します。信託会社の中には、司法書士や行政書士、ファイナンシャルプランナーなどの専門家と密接に連携し、ワンストップで支援してくれる体制を持つところもあります。
専門家への相談が必要なケース
次のような場合は、自己判断ではリスクが高く、専門家への相談を強くおすすめします。
- 財産が複数の名義・種類(不動産・証券・金銭信託など)にまたがる
- 相続人の間に確執がある、または家族構成が複雑(再婚・養子など)
- 信託契約後の税務処理や贈与・相続への影響が心配される
こうした場合は、司法書士や弁護士、税理士などの専門家とチームを組んで対応できる信託会社を選ぶか、あるいは信託契約支援に実績のある士業を通じて金融機関と連携する方法が現実的です。
FAQ
家族信託や信託業者選びに関するご相談を受けていると、共通する疑問や不安が多く寄せられます。ここでは、よくある質問をピックアップし、簡潔にお答えいたします。初めての方は、ぜひ参考になさってください。
Q:信託会社と信託銀行の違いは何ですか?
A:信託銀行は大手金融グループ傘下で、主に大口資産家向けの信託を取り扱います。信託会社は信託に特化し、家族信託など個別ニーズに柔軟に対応できるのが特徴です。
Q:家族信託は信託会社と信託銀行のどちらに頼めばいい?
A:契約内容が複雑で柔軟な設計を求める場合は信託会社、信頼性やスケールの大きい資産管理を求める場合は信託銀行が適しています。
Q:手数料はどちらが高いですか?
A:一般的には信託銀行の方が高額になりがちですが、信託会社でもオプションが多いと費用がかさむ場合があります。個別に見積もりを取りましょう。
まとめ
信託会社と信託銀行の違いは、単なる“名称の違い”ではなく、サービスの本質や契約設計の自由度、サポート体制、費用面にまで及びます。ご自身やご家族のライフステージや目的を見つめ直し、信頼できる専門家とともに慎重に選択することが、安心できる家族信託の第一歩です。